お金を貯める人・使う人

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会社の後輩がこの冬新しくバイクを買うという。ここでは彼のことを仮に金山くんと呼ぶ。

昨日の帰りがけにふとしたことからこの話になり、価格を聞いたらなんと60万円ほどするとのことだ。バイクってそんなに高かったのか。。。と僕は絶句してしまった。

彼は僕と一つしか歳が変わらない。すなわち、入社一年目のピカピカの新入社員である。よく購入に踏み切ったものだと思う。自分なら、「もう少し貯金をして余裕が生まれてから」と尻込みしてしまうだろう、一年経った今でさえ、躊躇ってしまう。

だが、金山君は「エンジン音聞いたら勢いで買ってました」とあっけらかんと言い放った。なんとも豪快な男だ。

この会話をそばで聞いていて「ついに思い切ったねー」と話に入ってきたのは、僕より二つ先輩の辰見さんである。この人は既にバイクを持っていて、数か月前から金山君が何の車種を買うべきか相談に乗っていたらしい。辰見さんも金の使い方がかなり豪快な人だ。昨年の4月に仙台に赴任してきたのだが、それから一月ほどでレンジローバーを一括で購入(たしか200万ほどしたと聞いた)。預金残高が一時期数万円というところにまで減って、給料日とクレジットカードの引き落とし日の順序が逆であったらお金が回らなくなる、という所まで追い込まれていた。
数百万円の買い物を経験している辰見さんからすると、今回の金山君の思い切った買い物はかわいくみえるのだろう。「結局車種何にしたの?」「納車いつ?」「今度ツーリング行こうぜ」などと盛り上がっていた。

しばらくの間、僕は話の輪から置いてけぼりを食らっていたが、ふいに辰見さんがこちらを向いた。

「それで、秋生君は君は何を買うの?」

「は?」

「いや、3人中2人がバイク買ってんだから。ねえ?」みなまで言わせるなという表情でこちらを見る。

「それパワハラって言うんですよ、知ってます?」僕は負けじと言い返す。これくらいのやり取りは日常茶飯事だ。辰見さんは笑って流してくれる。

「でも、お金は口座にあるだけじゃ、何の意味もないからねえ」

「確かに、それはそうですよね」

「だよねえ」辰見さんは、同志を見つけたり、という満足気な表情だ。

この空間にいると、まるでお金を使っていないこちらが「スケールの小さい奴」というレッテルを貼られているような気がしてきてくる。どこまでも劣勢だ。僕はそそくさと帰り支度をして抜け出した。


一人で家路を歩いているときも、先ほどの会話のことを考えていた。そして自分が想像以上に、二人の会話に「引いていた」ことに気がついた。

これまで「貯金も大してないのに、それの大半を使うほどの買い物をするなんて信じられない」というのが僕の中での常識であったし、それが世の「普通」なのだ、「正しい」のだ。と思ってきた。

だから、春に辰見さんが外車を一括で買って、その日暮らしをしていた時も「ずいぶん派手なお金の使い方する人もいたもんだなあ」と、特異なものを面白がるように見れていた。
ただ、ここにきて辰見さんの理解者となる金山君という人物が現れた。僕は、それが信じられなかった。まさかここで共鳴が起きるとは思ってもいなかったのである。
この2人といると、僕の中での「普通」が「異常」に換わり、「異常」が「普通」に置き換わる。だから、何とも言えない恥ずかしさを覚えるのである。


「お金は口座にあるだけでは意味をなさない」という先ほどの辰見さんの言葉が頭に残っていた。

時間も遅いので、夕飯を買って帰ろうとコンビニに立ち寄った。基本は自炊だけれど、面倒な日はコンビニ弁当になる。
先ほどの話のせいか、ちょっとお金使ってみるかあという気持ちになっていた僕は、弁当に加えて、普段は買わない、高めのスイーツとレモンサワーの500ml缶を買った。
レジで品物を通してもらい、表示された値段は「1,280円」


多分こういうことではないんだろうなと思いながら、いつもより少し重いコンビニ袋を提げて家に帰った。

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